【矢幡 洋/危ない精神分析】こじつけの精神分析の危険性を詳細に教えてくれた本【感想/レビュー】

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「危ない精神分析」は告発本である

この本はジュディス・ルイス・ハーマンというハーバード大学医学部精神科臨床準教授という人が著した「心的外傷と回復」という本に対する告発本である。


告発本。つまりは「ジュディス・ルイス・ハーマン」という人には間違った意見や解釈があるから、それを指摘していますよ、という本の事である。


ハーマンの記憶回復療法と女性解放


ハーマンの提唱する「記憶回復療法」とは何か?



今現在抱えている精神的症状は、過去に自分の身に起こった虐待体験によるストレスが影響している。

だが、その虐待体験を本人が思い出せない事がある。これを「乖離」と呼び、脳の別領域にその体験は封じ込められており、大人になりそのトラウマと対峙できるようになると精神的症状として発症する。

その「乖離」した脳内記憶を回復させるための療法こそが「記憶回復療法」だ。


という主張である。


なるほど、虐待体験者はその強いストレスに耐えきれないために、その体験を脳の別領域に保存しておき、その虐待体験に向き合えるようになった時、精神的症状として発症するから、その時こそが戦うべきなのだ。という事である。だからそのためにセラピストがクライアントの記憶を回復する手助けをしよう!そういう話である。



一見すると、何ら問題がないような話に思える。



「虐待された人がいて、その記憶を封じ込めていて、そのせいで精神的症状が発生している。だから記憶の根源を探り解決してあげる。」


確かにこれだけ見れば素晴らしい療法だと思えるだろう。


この療法がアメリカでは大流行した。大流行したことにより、何十年前に虐待を受けたとされる被害者女性が父親を告訴告発するというムーブメントが発生した。


ハーマンの大義は「女性解放」。そしてそれを実現するためには「記憶回復療法」を通じて虐待を受けた女性を救うこと。


ハーマンの「心的外傷と回復」という本は聖書的な扱いを受けた。
(日本では未だに聖書的な扱いを受けているらしい)



まぁ、ここまでの話を聞けば当然そう思う方がいても不思議はないだろう。


ハーマンは女性を救う正義の見方であり、女性の封印された記憶を解放し、残虐な虐待を行った父親に正義の鉄槌を振り下ろしている!!!



だが、事実は全く異なっている。つまりは嘘であった。

「記憶回復療法」の何が嘘だったのか?


結論から言う。「回復したとされる記憶そのものが、全くの嘘」であった。


つまりは偽りの記憶をクライアントに植え付けていた、という所が本当の所だったのだ。


クライアントは偽りの記憶を植え付けられて苦しみ、その苦しみから来る復讐の念を晴らすため、父親、もしくは母親を告訴告発する。
(念の為言うが、偽りの記憶であるのだから、父親母親は全くの無罪である。アメリカでは父親への告訴告発が中心的だった)



娘が50年前の虐待された記憶を取り戻し、親が告訴告発されて、賠償責任を負う。


そんな馬鹿げた話が本当に発生し、その主張を初期の頃はアメリカ人の大半が信じて熱狂した。

「記憶回復療法」の手法のおかしさ


「記憶回復療法」は偽りの記憶を植え付けていた、と先程記載したが、実際どのようにして記憶を植え付けていたのか?それを端的に示す。


クライアントは悩みを抱えてセラピストの元へと訪れる。

クライアントの悩みは「慢性の不眠、不安、対人関係の悩み」などを訴える。よくある悩みである、その原因は様々な可能性が考えられるから、詳細な診察が必要である。


だが、この時点でセラピストは閃き、クライアントに切り出す。


「あなたは性的虐待を受けたのではありませんか?」と。


診療結果は「PTSD。性的虐待の結果生じる典型的な症状です」と伝える。


クライアントの悩みは「慢性の不眠、不安、対人関係の悩み」である。これだけの要素で飛躍した結論を持ち出す時点で「記憶回復療法」のおかしさは伝わるだろう。


しかし「記憶回復療法」はまだ序章である。


セラピストは「あなたは性的虐待を受けたのだから思い出して下さい」とクライアントに伝える。


クライアントは「そんな記憶はない。全く思い出せない」と強く訴えるが、「それは強いストレスによって虐待体験を脳の別領域に封じ込めてしまう「乖離」という現象が発生しているからです、もっと頑張って記憶を取り戻して、精神症状を回復させましょう!!虐待されたという記憶を取り戻せなければ精神症状が改善することはありませんよ!!」と言ってクライアントを励ます(励ますという表現よりかは「脅迫」という表現の方が適切であるが)。


そういった断定と脅迫を繰り返すうちに、クライアントは自ら偽りの記憶を自己生成してしまう。そしてその偽りの記憶によって精神症状を余計に悪化させ、罪のない親を訴えることになる。

それでもセラピストは「症状が悪化しているのは、回復している兆候です。親を断罪して自分を解放しましょう!」と訴える。


これが「記憶回復療法」の実情である。



ハーマンの提唱する「記憶回復療法」に異を唱え、「偽りの記憶」という存在を証明したロフタス女史という人の功績により、現在ではこの「記憶回復療法」は間違った治療法として広まっているし、偽りの記憶によって親を告訴告発するという事もなくなっている。


ちなみに、ロフタス女史が「偽りの記憶」を証明した実験というのは、「ショッピング・モール迷子記憶実験」と呼ばれる。


詳しい内容については実際に書籍を読んでみて欲しいと思う。

個人的感想

セラピスト、医者、学者。


自分よりも圧倒的にその分野での経験と知識のある人の話はそれだけで強い影響力を持つ。


だから、その人に助けてもらおうとして、クライアントは信用して心を委ねてしまう。


だが、この本を読んで考えされられたのは「セラピスト、医者、学者の類にも悪い人、頭の悪い人、支配欲にまみれた人」は存在するという当たり前の事実である。


肉体や精神が弱っている時に、そんな人間に出くわしてしまった時に対処できるだけの体力は残っていないから抵抗は難しいだろう。


なので健康な状態の時に信用できる治療者を探しておくのは、やはり重要であるという事を強く感じた。


いくら流行しても、聖書として持て囃されようとも、間違っている物は間違っている。そこは皆の言う事ではなく、自分の脳みそを活用して考えるしかないのだろう。