イロトカタ

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【湊かなえ/告白】可哀想だからいって許される問題ではない事。それと正しい復讐について【感想/レビュー】

ざっくりとした「告白」への感想

この本を簡単に解釈するのならば、自分の大切な愛娘を、「自分の大切な何かが欠落した人生を埋めるためだけの道具」にしてしまう自分勝手な学生二人に復讐をする物語である。


加害者側からの告白を深い所まで長々と聞かさせる部分もあるので、多少の同情の余地が介入しない事もないが、やはりそれは子供の身勝手な独りよがりに過ぎない愚かな行為に過ぎない。よって最後には加害者の欲望はまるで叶えられないし、余計にどん底まで突き落とされる。


愚かな人間は非常にわかりやすく「愚かしい行動」を取ってくれる。


そして復讐者たる強い被害者は、他者から妨害される事があろうとも、強い意志を持って目的を達成する。



そういう構図からみれば、悪役は悪役らしく、そして復讐者は復讐者らしく動き、綺麗に復讐者が勝利を収めるので、物凄く気持ち良い終わり方ができる作品である。



こんな感じがとりあえず、すごくさっぱりした「告白」への感想だ。

愛情と強烈な毒にもなりうる


他人の自己開示ってのは、聞けば聞くほどにその人に好感を持ってしまう物らしいが、私としては学生A(修哉だっけか?)にも学生B(直樹かな?)にも理解はすれども、可哀想だなとも思えど、二人の殺人行為にはまったく理解できなかった。

  • あの二人は学生なんだから。まだ子供なんだから。
  • 二人とも親という存在に心を歪められたんだから。


片方は親の幻想を追い続けたために、もう片方は親からの理想を押し付けられたがために。


子供が親の影響を強烈に受ける生き物である事は否定の余地がない。


そういう意味で二人は「誰かの愛情のために不幸になった」という事が言える。

直樹君の場合

直樹君の母親の日記による「告白」を見ると、直樹君への呪いにも近いような「愛情と理想の押し付け」がそこには見て取れる。


直樹君の中にある理想を体現している修哉君。その修哉君にできなかった事を自分は達成する。それこそが自分がこの世に存在できる理由になるし、親から愛情を注がれる権利を得る事にもなる。


よって、直樹君は衝動的に悪魔が囁いた。「悪魔が囁いた」というと本人はやりたくなかった、みたいな感じに伝わってしまうかもしれないので、それは少し違うのかもしれない。


直樹君は、親から課せられた理想を打ち倒すため、自分のこの世での価値を手に入れるため、親から認められ「本当に愛される資格」を得るために、「直樹君自身が悪魔になった」というのが正しいのだろう。


修哉君の場合


逆に修哉君は、小さい頃に親から見放された。

複雑な理由はあれども、結局の所、母親には修哉君以上に大切な物が見つかってしまい、結果として見放された。


直樹君が過剰な愛情を注がれた事による不幸だとするならば、修哉君はあまりにも少なかった愛情を認められずに、妄想と期待の力でなんとか自分に愛情を取り戻そうと奮闘し不幸になる存在である。



修哉君が不幸だった所は、「愛情の欠乏が著しい」という事と「知能と行動力が非常に優れていた」という事が悪く連鎖作用を起こしてしまった所にあるのだと思う。


頭が良いが故に「愛されなかった現実」を正しく認められず、妄想の力で「理想の現実」を作り出してしまい、その無謀な理想に向かって、反社会的な異常に自分本位な行動を果敢に実行できてしまった。


自分の才能が良い具合に噛み合わなかったのが、修哉君なのだろう。

可哀想だから、何をやってもいいのか?


二人の学生は可哀想であったし、不幸であった。それは確かであるし、同情する要素に十分になり得る。


まぁ、でもだからといって「関係ない他人を殺して良い理由にはならない」のは当然の話である。


どんなに長大で同情を誘う「告白」をされた所で、そこが何ら揺らぐ事はない。


自分可愛さで「他人を不幸にすることを厭わない人間」は結局余計に不幸になるのだろう。そんな事を強く再認識した。


正しい復讐とは


どんなに自分が可哀想でも、関係ない他人を巻き込んではいけない。私はそう思う。


よって修哉君と直樹君の行動には理解できないし、先生の復讐は鮮やかだとも感じてしまう。



学生二人も被害者であり、先生も被害者だ。



でもその二種類の被害者の印象をこれだけ違うものにしてしまう要因は、「正しい復讐の方法」を熟知しているかどうかにあると思う。


それが子供と大人の違いなのかもしれない。
(だからといって、子供のやった事を妥当だと思うつもりもないが)


  • 被害者は可哀想!
  • 復讐なんて何も生まない!

この二つの主張は一見正しいように思えるが、見方を変えるのならば「マイナスの要素に蓋をしている」だけだ。被害者とは何の関係のない人間にとって都合の良い意見だ。




自分の不幸をどうやって認めて、その溜まった不幸をどうやって解消させるのか。その辺りの学習が学生二人に施されていれば、結果は違ったものになったのかもしれない。


おわりに


物凄く面白かった。映画化されたのも遠い昔に松たか子さんが出演されているのと一緒に知っていたが、その時はまるで興味がなかったので見なかった。見ておけばよかった。


本を開いてからは、私としては非常に早いペースで熱中して読めた。良い時間でした。


一人の人間に対して色々な見方ができて、その上で暗いテーマについても真摯に考える機会を与えてくれ、最後には気持ちよく終わらせてくれる。


そんな素晴らしい本でした。